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2017.05.17(Wed) COLUMN

「一つでもダサいと全てダサい」おしゃれのサラブレッド女子が突きつけられた現実

月20万。
美琴が服につぎ込む金額である。

ファッションデザイナーの父、そして主婦向け雑誌の現役読者モデルである母の間に生まれた彼女にとって、この金額は特に高くはない。
むしろ当然の出費。

そしていま20歳になった美琴は、都内の有名女子大の学生となり、何人もの男が寄ってくる。
彼女にとって人生は「ちょろいもの」だった。

けれどもそんなサラブレッドの美琴が唯一持つ欠点。
それが”男”だった。

サラブレッド女子の盲点

「美琴って男の趣味、悪いよね」
若手の大手銀行員との合コン帰り、六本木駅まで歩いている途中で由真に言われた一言だ。

彼女たちの鉄則は当日の持ち帰りはされないこと。合コンが終わるといつもその日の総括をしながら帰途につく。

由真は女子大の同級生だが、浪人しており歳は一つ上だった。
女子で一浪はあまりプラスに捉えられないが、彼女のあっけらかんとした口調によって男からはかなり好印象で受け入れられる。

もちろん彼女の人に劣らないルックス、主張がすぎないファッションセンスもそれに一役買っているのは間違いなかった。

「そうかなあ」
と美琴はその話題をはぐらかそうとする。

「そうだよ、だってあんな…」
由真は吹き出し、笑いながら言う。
「初めてみたよ、あんなダサいネクタイの人」

その日LINEを交換した正幸のことだと、美琴はすぐにわかった。

目は一重で細長く、系統としてはワイルドな顔立ち。
銀行に似つかわしくないそのギャップに美琴は少なからず好感を持っていた。

彼の服装は細身のネイビーのスーツに緑色で光沢のある太めのネクタイ。
それは由真にとっては”ありえない”組み合わせらしい。

「いつも思うんだけど、美琴が連絡とってる人ってなんか美琴に似合わないって感じなんだよね」
由真はハキハキとした口調で続ける。
「もったいないよ、美琴。服はおしゃれなのに男の趣味ダサいとか」

美琴は少しイラついた声で言う。
「でもさ、別に私がおしゃれであれば良いだけで、男にもそれを求める必要なくない?」

その瞬間、由真は勝ち誇ったような表情で彼女を見てから一言。
「これだから、バージンちゃんは」

「それ、関係ないから」

「関係あるよ。やっぱり男性経験ないとそうなるよね〜」
とバカにしたような口調で言った。

すると突然由真は彼女の肩を摑み「聞いて、美琴」とさっきとは打って変わって真剣な表情で言った。

「男が女と歩いているとき、何考えてると思う? この女は俺のものだ、所有物だって思って歩いてるんだよ。それって、超ムカつかない?」

美琴は小さく頷く。

「女に足りないのは、男を所有物とかアクセサリーだと思って扱う力なんだよ。めちゃブスな女が美琴の彼氏を見てダサいって思ったら、それは美琴自身もダサいの。持ってる物一つであなた全部がダサいと思われてもいいの?」

美琴は何も応えられなかった。
由真の迫力に圧倒されたのもあるが、何より美琴は彼女の言葉に得心していたのだ。

◆◆◆

由真のスマホにはいつも何通もの男からのラインが入っている。

今日、合コンで会った正幸。
同じく別の合コンで会った広告会社勤務の航平。
インカレの軽音サークルの先輩、翔也。
高校の同級生、直輝。
バイト先の後輩、勇治。
そしていわゆる”パパ”の会社役員、司。

美琴の数ある男子ストックの上位から、器用に返信していく。

全員と次のデートの約束を取り付け、いつも通りの一仕事を終えた。

しかしその心持ちは少しいままでとは違う。

由真からの言葉に、美琴は少なからず動揺していた。

いつも男のどこに目がいくかといえば、ちょっとした仕草や肩書きなどのスペック。
正直服装なんてどうでもよかった。

彼女は自分以外で外見を気にしたことがなかったのだ。

これまでファッションにかけてきた情熱とプライド、そしてなによりおしゃれの血筋を受け継ぐ彼女が”似合わない”、そして”ダサい”という言葉を受け付けるわけがない。

自分にダサいと言ってきた由真を見返すためにも彼らのファッションだけでなくセンスも改革する必要がある。

目指すなら唯一無二。
美琴は自分に誓い、研究をはじめた。

◆◆◆

表参道のアップルストアの前で待っていると、青山通りの方から正幸が歩いてきた。

メンズファッションのすべてを知ったいまの美琴は、「男のダサいってこういうことか」と正幸の服装を見て再確認した。

まず目に付いたのは、ダメージジーンズ。
ワイルド系の正幸が履くこと自体は問題ないが、表参道という少し上質な街で着るには相当高いおしゃれセンスが必要になってくる。

その下にはやたらとでかいハイカットブーツ。
アンバランスなサイズもさることながら、折り返されたハイカット部分のネイビー色の裏地のチェックがダサさをさらに増長させている。
大学生ならまだしも、社会人の服装としてこのブーツは完全にアウトだ。

極め付けはイエローのTシャツ、そしてその上に羽織った赤いチェックのシャツ。
おそらくチェックのシャツはブーツの裏地と合わせたのだろうが、正直チェック柄の微妙な差、そもそも色が異なる時点で完全におしゃれが空回りしている。

イエローのシャツに至っては変なロゴが入っていて、なぜそれを選んだのか、もはや正幸の思考回路を疑うほどだった。

彼の今日の服装を総括すると、イエロー・ネイビー・レッドが混在したまさに泥仕合状態。
そこにダメージジーンズが追い討ちをかけるという、雨上がりのグラウンドのようなぐちゃぐちゃなファッションだった。

「どうしたの?」と正幸は不思議そうな顔で美琴を見ていた。

「なんでもない、いこ!」
と美琴は正幸の腕を引く。

そのときの美琴はダサいの感覚が手に取るようにわかった高揚感と「正幸をなんとかしなければ」という使命感に駆られていた。

彼女の中の血筋が騒ぎ始めた瞬間だった。


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