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2017.05.31(Wed) COLUMN

セメント男vol3:ルックスだけじゃない。他人との共有ができないダサメンの行方は・・・?

ファッションに興味がなかったり、身だしなみに気を使わない人間は、偏りがあり他人の意見を聞き入れない傾向にある。

年齢やその時の気分によってガラリと印象を変える洋服は、自己表現の一種でもあるからだ。

イメチェンをすることは、自分の考えや視野を広くすることであり、価値観を豊かにしてくれる。

つまり、オシャレをしないということは、練磨することなく凝りかためられた価値観だけで生きているということ。

ここに凝りかためられた価値観で他人と馴染みにくい育った不遇な青年がいる。

セメント男は順応できない


斎藤タカトシは、地方の高校を卒業後、「東京に行きたい」という安直な理由から都内の大学へ進学した。

それまでは、中学・高校と野球一筋だったため、まったく自分の身なりに対して気にすることはなかった。

今となればそれがセメント男の始まりだった訳だが。

しかし、多くのイモ臭い男子学生でも大学に入ればサークルでの繋がりから、徐々に垢抜けてくるもの。

タカトシも例にならって他の学生と一緒に大学デビューのようなものを思い描いていたが、どうにもあの場面場面だけのエネルギッシュな環境には馴染めなかった。

何度かサークルの歓迎会や飲み会には参加したものの、意味もなく騒ぐだけのノリについていけなかった。

そうして、夢見ていた華やかなキャンパスライフとはかけ離れて、大学とアルバイトと自宅のローテーションという日々を過ごしていた。

そのバイト先で知り合った女性と1年弱ほど交際に至ったが、彼女が就職を機に実家へ戻るということで別れることに。

そんな彼女も時折タカトシの見た目には言及することがあった。「タカってシュッとした顔してんのに、全体で見たらボテっとしてるよね笑」

当時は言われている意味もわからず、ただバカにされているだけだと拗ねてしまっていた訳だが、上はグレーか黒のパーカーやデカ目のブルゾンで、下は味気のないデニムともなれば「ボテっと」した感じが想像できるという話。

そう、これまで周りの人間が自分にうっすらとダサいことをほのめかしてくれる機会はあったのだが、それに気づこうとしなかったし、興味のないことにはシャットアウトする変なプライドの高さもあった。

服装に気を使うことがなければ、価値観を変えることがなく、凝り固まった考えが形成される。これが、セメント男の特徴である。

セメント男は愚直


タカトシは、とあるIT企業の営業マンとして働き始めて3年目になる。

職場ではオフィスカジュアルなら私服でもOKという服装の規定があるが、営業という名目からタカトシは毎日スーツで出勤している。

業務にふさわしい服装としてスーツはなんの問題もないわけだが、彼にとっては自分のダサい私服をひた隠しにできる環境とも言える。

合コンの場にグレーのパーカーとダークグレーのデニムを合わせてくるようなセンスの持ち主だ。

毎日私服を着てくるとなれば、ただただ醜態を晒すだけというもの。

もちろん服装など、見た目に関することは各々の自由のため誰が指図してくることもないのだが、タカトシは急遽自分のダサい服装を見直さなければいけない状況に陥ってしまった。

それは、半年前から会社に中途入社した高橋ユカに恋心を抱いてしまったため。

タカトシと同じく営業の部署に配属された彼女は、その凛とした雰囲気もさることながら、抜群に私服のセンスが良い。

洋服にはからっきしのタカトシだが、他人の見た目にはうるさい性格で、その中でもユカのルックスはドストライクといっても良いほど好みなのだ。

年齢は25際でタカトシと同い年になるわけだが、まとまりのあるウェーブがかかった黒のロングヘアにこれ以上くらい履きこなしているパンツスタイルからは大人の女性としての魅力が溢れる。

基本的にスカートは履いてこない彼女だが、営業の一環として先方との懇親会の日には、スレンダーなラインを強調したダークグレーのラップワンピースを着てきたりする。

さらにタカトシがユカに気が向いたのは、彼女の持ち前の人当たりの良さと愚直に努力する一面があったからだ。

前職は百貨店のコスメ販売をしていた彼女で、まったくのゼロから参入した業界にも関わらずたったの半年でメキメキと営業成績を残している。

また、タカトシの直属の後輩として彼の元で指導をしていたため、近い距離感から彼女に少しづつ惹かれていくようになったのだ。

それに対してユカもタカトシに対する印象は悪く無く、頼り甲斐のある先輩として認識していた。

タカトシは、目鼻筋がくっきりとしていて端正な顔立ちをしているため、はたから見ればお似合いの美男美女カップルな訳だが、彼には拭おうとも拭いきれないダサい私服と強気な性格とは裏腹に女性には奥手な一面があった。

大学を卒業して新卒で今の会社に入社しており、卒業の半年前に彼女と別れてからすでに3年半ほど女性と二人きりでデートもなし。

女っ気がまったくないことから会社の同僚からは飲み会のたびに「宝の持ち腐れ」だと言われている。

そんなイケメンなのに女性との接点がない彼が、数年ぶりに恋をしたのは社内でも評判の美女だ。怖気付く気持ちも多少わかる。

そんなタカトシの尻込みする様子を見かねて、彼の同期が部署での飲み会の際に二人の連絡先を交換させる計らいをしてくれた。

結果、その流れでデートまでセッティングできた訳だが、そのおかげで問題のダサい私服を解決しなければいけなくなったのだ。

セメント男脱却・・・?


ユカとのデート1ヶ月前にタカトシは先輩に呼ばれ合コンに参加したのだが、この合コンがセメント男脱却の一歩目となった。

タカトシ自身乗り気ではなかったが、大学バイト時代の先輩にただいるだけでもいいと懇願されたことから渋々参加したもの。

先輩側としても突如出た欠員の穴埋めと、ダサくても容姿は悪くないタカトシなら戦力になると踏んでいたからだ。

しかし、そんな思惑は開始早々崩れ去る。

もちろん例のごとく、普段のダサい私服で登場したタカトシは、開始から仏頂面で女性からの問いかけにもほとんど答えることなく物静かに、むしろ合コンの場の雰囲気を壊しかけるような空気を放っていた。

盛り下がりを見せた合コンも終わりを迎え、連絡先を交換し始めた訳だが、とあるセレクトショップでスタイリストをする美菜子はタカトシに自分のLINE IDとともに名刺を渡してきた。

合コンの最中は、終始テンション高く会話を盛り上げようとしていたため、タカトシは若干引いていた訳だが、「スタイリスト」という今まで馴染みのなかった肩書きに興味をそそられた。

加えて美菜子は去り際に「タカトシくん素材がすごいいいから今度お店に来てよ。必ず似合う服合わせてあげる」と、一言添えていった。

正直、上から目線な感じにまたもやムスッとしたタカトシだったが、来月にはユカとのデートを備えていたため、彼女の名刺に書かれていたショップへ訪れてみた。

そこで、美菜子が彼に合わせたのが、夏らしく爽やかなシャーベットカラーの水色のシャツとホワイトショーツだった。

オシャレといえばなんとなくチャラチャラしたイメージがあったが、シンプルな組み合わせに心のそこからそのセットを気に入った。

そこで美菜子からもらったアドバイスが、「君は長身で整った顔立ちをしているから変に着飾らなくていいのよ。」というもの。

ファッションに対して何かと複雑で面倒な印象を持っていたタカトシにとって、何かタガが外れるような一言に感じた。

もちろんプロのスタイリストがモデルをしかと見極めて選抜したコーディネートだ。

デートでのユカの反応は見えるからに上々だった。

やりすぎ感がなく自分も心底気に入り、相手にも喜んでもらえる私服を着ることで、新しい自分と対面したような感覚を味わうことができた。

セメント男がこれから少しは見た目を変えていこうと思えるきっかけになった訳である。

しかし、その後何度か手応えを感じられるデートをしたにもかかわらず、ユカとの交際に至らなかった。

それは、まるで姑のようにユカの一挙手一動に口うるさく文句を垂れたため。

まさにセメントのように凝り固まった自分の価値観を押し付けるタカトシの様子にユカは嫌気がさしてしまったのだ。

後日、タカトシは再び美菜子の働くセレクトショップへ顔を出した。

前回洋服を買ったばかりのハツラツとした表情とは打って変わった、どんよりしたオーラを放ちながら。

fin…


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