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2017.06.30(Fri) COLUMN

【おしゃれじゃない街でのおしゃれの仕方】アキバ男子が得た変身ベルトとは

秋葉原は特異な街だ。
千代田区という日本の中心地区に位置するにも関わらず、縁がなければ若者はほとんど訪れることはない街。
そう、「縁」がなければ。

秋葉原でオフィス向け保守・管理システム開発会社でプログラマーとして働くヨシハルは、根っからのオタクだった。
プログラマーという職種だけに適用されている「私服勤務」制度をフルに活用し、1週間で3つのレパートリーを着回し、仕事終わりには電気街に繰り出す……。

「好きなことさえできれば良い」
そう思い続けて社会人3年目を迎えるヨシハルに訪れたある異変とは。

根っからの理系オタク男子が気づいた”ぬるま湯”

午後10時。ヨシハルがキーボードを打つ手を止めると、フロアは静まり返った。
周りを見渡すと、さっきまで後ろで同じように、背中を丸めて画面にかじりついていた新入社員が消えている。

「富田……。富永……?」と彼はつぶやいてみる。
部署は違えど3ヶ月前に入った後輩の名前すらヨシハルは覚えていなかった。

プログラマーという職種の性質上、新入社員であろうとなかろうと仕事が終わるまで帰れないのが普通だった。
先月上司のプログラマーがヘッドハンティングで退職し、部署を掛け持ちしていた彼が残して言った仕事のしわ寄せは、ヨシハルと3ヶ月の新入社員にいった。

ヨシハルは気だるそうにパソコンをシャットダウンし、ボディバッグをひっさげてフロアを出た。

東京にある中堅大学の理工学部を卒業し、3年が経つ。
大学からインターンに入っていたバックオフィス系のシステム開発会社にそのまま就職。

業務は多いが、残業代も出るし、ある程度規模の大きく福利厚生も堅実。
そしてなによりオフィスがアキバなのが、ヨシハルの決め手だった。
仕事にこだわりのないヨシハルにとってこれほど好条件の職場はなかった。

彼は駅とは反対にある、アキバの電気街のある店へと向かった。

「おかえりなさいませ、ご主人様!」
ここは彼をアキバと繋ぐ「縁」になっている場所だ。

「お一人さまですか?」
彼は頷き、席に通される。

「ご注文はいかがになさいますか?」
席に着くなり、お気に入りのミクリちゃんが付く。

ヨシハルの目には、ミクリちゃんの背中に羽が生えており、一般人が想像する天使のように見えていた。

「お待たせしました♡ メロンミルクフロートになります。」

ミクリちゃんから笑顔で出されたメロンミルクフロートは、ミクリちゃんのメッセージが書かれたコースターの上に置かれた。

コースターに書かれた[今日もお疲れ様]は、毎回代わり映えしないが何も書かれてないと違和感があるなくてはならないものだ。

ヨシハルにとって、ミクリちゃんとのこの時間だけが癒やしの時間。

そんな癒やしにヨシハルが浸っている中、

「アカネいるんだろ?出てこいよ」

いきなり入口付近で怒鳴り声が聞こえた。

その男の顔を見た瞬間、ミクリちゃんの顔から笑顔は消え、店の奥に行ってしまった。

「いるの知ってんだぞ!」
男は、店長が呼んだであろう警察に両腕を掴まれながらも相変わらず怒鳴り散らしている。

ヨシハルは、迷惑だなーっと心の中でタメ息を付いた。

男が警察に連れて行かれ、男の姿が見えるか見えないかの所で
「より戻してくれー!アカネー!」
「おーい! ミクリー!」
「より戻してくれー!ミクリー!」
「ミクリー!」

騒いでた男の声が、だんだん小さくなる中で叫んだ
「ミクリー!」
という言葉に、ヨシハルは動揺を隠し切れず大量の汗が額をつたっていた。
冷房が20度に設定されたはずの店内で。

その後、どうやって家まで辿りついたか記憶にないが、ヨシハルは自分のベッドに横たわり、今日のことが夢であってほしいと思いながら眠りについた。

ヨシハルが目覚めたのは、せっかくの土曜日が終わる5分前。
寝すぎたせいか頭がガンガンしている。

眠たい目をこすりながらテレビをつけたヨシハルの目に、最初に入った光景は金曜のメイド喫茶のニュースだった。

「夢じゃなかったのか、、、」
声に出したつもりがなかったが、ヨシハルの口からは聞き取れないぐらいの悲しみが音に乗って口から漏れていた。

テレビからは、聞きやすい女性の声で事件の詳細と犯人の情報が流れていた。

14日(金曜日)午後10時30分ごろ、秋葉原のメイド喫茶で、
客を装い店内に入店しようとした男性が叫びながら暴れ出しました。
この事件で、会社員・宮田利勝さん(23)が警察署に移動中、車道を逆走してきた車と衝突し死亡しました。
警察官は、搬送先の病院で意識不明の重体です。

ヨシハルは、一瞬テレビに聞き耳を立てた。
というのも、犯人の富田という名前とテレビに映し出された映像は、いつもヨシハルの後ろの席で背中を丸めて画面にかじりついていた新入社員そのものだった。

「あっ、、、あいつが、、、」
驚きのあまりヨシハルの口は開ききっていた。

寝すぎて痛い頭に、追い打ちをかけるようなニュースの内容を整理しようとヨシハルはシャワーに向かった。

シャワーを浴びながら、ふとお腹減ったなーっと衝撃の強い事実とは逆に何か食べようと何気ない思考が頭の中を駆け巡った。
考えてみれば、ヨシハルは丸々1日何も食べてなかったのだ。

シャワーから上がり洋服を着ながら、ヨシハルはベルトを無くした事に気付いた。

「まぁいっか」
ヨシハルは、今まで見た目より仕事や趣味を優先してきた人間だ。
それに、今は見た目より問題が山積みで服装を気にしている頭の隙間は無かった。

高校から変わらないサンダルを履き、近くのコンビニへと向かった。

2話に続く、、、


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